NITSニュース第118号 令和2年1月31日

対話による気づきと自覚による問題解決

新潟大学 教授 長澤正樹

インクルーシブ教育システムでの生徒指導の一つとして、ユニバーサルプログラムを取り入れた3層モデルがあります 注)。 1次支援は全員を対象とし、ルールを守っている児童生徒を褒めることです(1層目)。 2次支援はルールが守れなかった児童生徒を対象とし、対話による自己解決法にて問題行動を改善します(2層目)。 そして3次支援は、2次支援で結果が出せなかった児童生徒を対象とし、専門機関と連携します(3層目)。 1・2次支援は、担任および学年で取り組みます。例えば、いじめのない学級づくりをめざす1次支援は、優しいことばを使うことを学級のきまりとし、できている児童生徒をほめます。 ここでは1次支援でうまく結果が出せない生徒に対して担任ができる2次支援を、事例を使って紹介します。

中学1年生のAは、学級目標である「相手と良好な関係維持に必要なことばを言う」ことができません。それどころか、気に入らないことがあるとすぐに手を出し、学級で問題視されています。 そこで教師はAと個別に話し合い、「Aが友だちのBを殴った」ことをとりあげ、その理由を尋ねました。以下、教師とAとのやりとりです。 Aは「だってBが悪いんです。あいつが僕を睨みつけたから殴ったんです」と答えました。教師はその事実を確認し(「にらみつけたと思ったから殴ったんだ」)、殴った結果どんな結末になったのか聴きました。 Aは「喧嘩になりました。そして、なんだか気まずいんです、2人の仲が」と少し悲しそう。そこで教師はこの過程を言語化し、殴ったことがA本人にとって好ましくない結果になっていることを伝えました。 そのうえで、殴ることがAの利益にならないので、別の方法を考えるべきではないかと提案しました。 そして教師がいくつかアイデアを示すと、Aは「わかりました。手を出すのではなくその場を離れることにします」と言ってくれました。

その後のふりかえりによるAの様子ですが、Bだけではなく何人かの同級生と気まずい雰囲気になったことが何度かありましたが、手を出さないようにしていました。 教師が1日の振り返りをすると、「悪くない人間関係になっている」と報告しました。さらに1ヶ月後の振り返りでは、「すこしばかりがまん強くなった」と答えました。

長澤(2019) 注)は「気づきと自覚による問題の自己解決」を提案しています。その説明は次の通りです(かっこ内は上記の事例)。 対話を通して(個別の話し合い)、子どもの気づきをうながし(睨まれて殴ると自分も損をしている)、これからすべきことを自覚できる(その場を離れる)ようにします。 そして実践とふりかえりから変化に気づき(悪くない人間関係)、成長を自覚する(がまん強くなった)ことができるようになると思います。

この過程でむずかしいことは「問題への気づき」です。「あなたはみんなの迷惑になることをしているんですよ」「良好な関係づくりをめざしなさい」とストレートに話すことは、気づきをうながす対応ではありません。 先ほどの事例ではどうしていたか、思い出してみましょう。教師は対話を通して、できごとを時系列に聴いています。問題のきっかけ(Bが睨んだ)、できごと(殴った)、結果(喧嘩、気まずい)です。 応用行動分析では、問題のきっかけを先行条件、できごとを行動、結果を結果事象と言います。 大事なことはこのような分析による客観的事実を共有することです。共有することで自分の体験を俯瞰して、問題に気づくことができると考えます。

学習指導要領では、主体的で対話による深い学びを大事にしていますね。気づきと自覚による問題の自己解決は、まさしくこの方針に従っているのです。 その後のAとBですか? 以前よりもっと深密な関係になったそうです。

注)ユニバーサルプログラムについては以下のサイトを参照。

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