NITSニュース第129号 令和2年6月12日

『With コロナ』に向けて私たち教員が大切にしたいこと

兵庫県立大学 准教授 竹内和雄

「来週から一斉休校」
突然の休校、自粛要請、緊急事態宣言、分散登校…。 子どもたちのことを一番知っているはずの先生方の知らないところで、いろんなことが決まっていきました。 私は、立場上、全国各地の先生方の声に触れる機会が多いです。 国や自治体の急な方針転換に戸惑う声も多く聞いていますが、子どもたちの命を守るためですからしょうがないことです。

緊急事態宣言が解除されて、登校再開が始まった段階で、学生たちと手分けして、先生方に聞き取り調査をしてみました。 「はしゃいだ子どもが濃厚接触しないか心配」 「2m距離を取らなければいけないけど、本当は駆け寄って近くで話したい」 「子どもたちに抱きつかれたら引き離すのがつらいなぁ…」 「しっかり食べずに痩せてる子が増えていそう」 「消毒を徹底して、手洗い場を確保したけど、消毒剤が足りるか心配」…。 感染防止のため、子どもたちの命を守るために先生方は一生懸命でした。

登校がある程度進んだころ、再度、聞いてみると驚く声を多く聞きました。 「はしゃぐと思ってた子どもたちがおとなしくきちんと座っていた」 「無表情の子どもが多く心配」 「痩せている子は少なく、太っている子が多かった」 「みんなと話すとかではなく、ぼーとしている子が多かった」…。 元の活気のある教室をイメージしていたのですが、多くの先生がシーンと静まり返っていたと報告してくださいました。 子どもたちに何が起こっているのでしょうか。

似たような状況を私は経験しています。 私は東日本大震災直後、釜石、福島等の被災地での「中学生サミット」のコーディネーターとして、複数の中学校の職員室に長く滞在させていただきました。 震災直後ですので、彼らの心のダメージを心配していたのですが、そこで出会った子どもたちは、元気に挨拶するし、這いつくばって掃除をするし、元気いっぱいでした。 現地の先生たちに聞いてみると、 「もとは掃除をさぼる子ももちろんいましたが、今はみんな勤勉です」 「不登校もかなり減り、問題行動もほぼありませんので、助かっています」 「でも、あれだけのことが起きたんだから、彼らの心が心配です」…。 大きな震災を経験したのに、健気に頑張る子どもたちに敬意さえ覚えました。 ……それから2年くらい経って、多くの子どもが崩れだしたそうです。 本業が忙しくなったので、実際に被災地に赴いて子どもたちと接することができていないので軽々しいことは言えませんが、現地の知り合いの先生が、 「子どもたち、我慢していたのが溢れたのかもしれません」 「大人がたいへんなので、子ども心にお利巧さんにしてたんだと思います」 と言っておられたのを覚えています。 心へのダメージが大きい場合、症状として表にでるのには時間がかかる場合があります。

今、無表情な子どもたちの心の中で、何が起きているのでしょうか。 自粛疲れでしょうか。ネットのしすぎの影響でしょうか。それとも単に、クラス替え直後で級友に慣れていないだけでしょうか。 誰にもわかっていません。 それぞれの先生方はそれぞれに答えを出して対策をしています。 中国地方のある小学校の先生は、グランドの子どもを集めて「だるまさんが転んだ」をしたそうです。 九州の小学校の先生は「鬼ごっこ」。東北の中学校の先生はクイズ大会。 それぞれの先生が自校の実態にあわせて選んだことです。 先生方の学校の子どもたちは、もしかしたら「無表情」ではなく、笑顔いっぱいで、普段と変わらないように見えるかもしれません。 ただ、それが本当の笑顔と即断するのは危険です。

「子どもたちの命を守ること」は必要です。これまで国を挙げて取り組んできました。 次の段階は「子どもたちの心を守ること」です。 厚生労働省や保健所の人は、プロとしていろいろな対策を講じてくださいます。 私たちは子どもに接するプロとして、子どもたちに向き合わなければなりません。 子どもたちは急に休校になって、ずっと家にいました。 そしてこれから「With コロナ」、コロナと一緒に生きていきます。 こんな経験をした子どもはいません。既存のマニュアルは存在しません。

私は今、知り合いの養護教諭の先生方と連絡を取り合って、健康調査のためのチェックシートを試作しています。 時間がないので、10数問に絞ろうとしていて、実際に使うかどうかはまだ決まっていませんが、ケアが必要な子どもを見つけるための参考にするために作ってみました。 これはある学校のある先生の問題意識から出た答えです。 他の先生が自分のクラスを見たら、別の問題意識が生じるかもしれません。 最も重要なのは先生ご自身の目です。 未熟な子どもたちは自分の心に何が起きているのかわかりません。 答えのない「Withコロナ」を生きる教師として、「子どもの心を守る」ために何ができるか、それぞれが問い続けなければならないと思います。 試されているのは、私たち教師自身の姿勢です。

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