NITSニュース第138号 令和2年8月14日

コロナ危機に示された教師の資質と力

独立行政法人教職員支援機構 上席フェロー/OECD教育スキル局 政策アナリスト 百合田真樹人

新型コロナ感染症対策に伴う外出制限措置が大幅に緩和されたフランスでは、バケーションシーズンを前に欧州圏内の移動が解禁されました。 ただし、3月中旬に始まった在宅勤務はすでに4か月を超え、8月になっても在宅勤務が原則として続いています。 日本の状況はいかがでしょうか。

コロナ禍を契機に私たちの生活も働き方も大きく変わりました。 なかでも世界各国の教育現場でICTを活用した遠隔教育や学びの支援の実践は、コロナ禍を契機に急拡大しています。

一方で、休校措置下の火急的措置として急速に展開されたICT活用を、ここで振り返る取り組みが求められます。 ICTを活用した教育活動には、学校の準備状況や家庭の通信環境、保護者の関与のあり方の差による格差拡大という負の側面も確認されています。 このような格差課題を改めて確認し、実践と制度の両面から的確な対応措置を検討する必要があると考えます。

また、突然の休校措置とその長期化に伴う先行きが不透明ななか、実に多くの先生方が、試行錯誤を重ねて子どもの学びの支援と公教育の継続に努めてきたことを忘れてはなりません。 教師という専門職の責任を担い、試行錯誤を重ねた先生方の多くは、心身ともに大きなストレスを抱えた状態にあることが容易に想像できます。

思い返せば東日本大震災でも中国地方豪雨災害でも、学校の先生方は非日常のなかで日常を維持することに最前線で取り組んでこられました。 危機の最中で日常を維持し、公教育の継続と学びの支援に向けて現場の先生方が示す柔軟性と責任感に対して、改めて積極的で顕在的な評価を工夫することが大切でしょう。

過去20年間の教師の資質能力をめぐる議論の多くは、個々の教師の力量不足、資質能力不足をどう克服するかに軸足を置いてきました。 教育の質保証を個々の教師の力量と結びつける言説は、同時期に生まれた教師力という言葉にも表れています。

ところがコロナ危機をはじめ、その他の危機を前にした教師は、その力量を柔軟に活用して公教育の継続と子どもの学びの支援に試行錯誤を重ね、専門職としての高いモラルを示してきました。 一括りに力量不足と言えるほどに、教師の力量も教師集団も一様ではなく、何が力量として発揮されるのかも自明でないことは明らかです。

コロナ後の教育やICT活用の継続を議論するなかで、教師が示した力量とモラルとが看過されるならば、それらの議論は不完全になるでしょう。 一方で、全ての教師が高い力量とモラルを備えていると考えることも短慮に過ぎます。

コロナ危機後の教育を議論するうえで、個々の教師が危機にどう応答したのか、どう応答できたのかという個々の実践や経験の丁寧な省察が求められます。 そのうえで、どのようなマネジメント環境の下で個々の教師の多様な力量が発揮されたのか、また制限されたのかを振り返ることが求められます。

コロナ危機で革新的な取り組みを実践した主体である教師に焦点をあて、どのような教師がどういった環境の下でその専門職に附帯する力量とモラルを発揮したのかを省察することは、学校マネジメント及び人事マネジメントの観点からも、さらなる高みを目指す礎につながるのだろうと考えています。

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