NITSニュース第148号 令和2年10月23日

学校の組織力を捉える視点―「学習する組織」論からの示唆

国士舘大学 教授 北神正行

学校教育の質保証を目的として進められている現代教育改革において、学校の組織運営改革は、「学校の組織力」向上を中心的課題としています。 この背景には、今日の学校が抱える課題が多様化・複雑化・困難化し、教員個人の指導力だけでは対応できない状況にあり、学校が組織として対応していくことが必要だという認識があります。 ここに、学校の組織的対応力としての「学校の組織力」向上という現代的課題があるといえます。

では、学校の組織力とはどのようなことを意味するのでしょうか。 また、どのような仕組みや働きかけが、学校の組織力向上には有効となるのでしょうか。 ここでは、 そのことについて、近年の学校経営研究の中でも注目されている「学習する組織」論から検討してみることにしたいと思います。

「学習する組織」論とは、 アメリカの組織学者であるセンゲ(Senge.P.)が提唱している考え方で、日本でも特に2000年代になって注目されてきた考え方です。 そこでは、「学習する組織とは、 目的を達成する能力を効果的に伸ばし続ける組織であり、その目的は皆が望む未来の創造である。学習する組織には、唯一完全の姿があるわけではない。むしろ、変化の激しい環境下で、さまざまな衝撃に耐え、復元するしなやかさをもつとともに、環境変化に適応し、学習し、自らをデザインして進化し続ける組織である」とされています。 また、こうした組織を形成していくためには、「多様な関係者が真の対話を重ね、 複雑な現実を見つめ未来のビジョンを共有すること」が必要であるとも指摘されています(ピーター・M・センゲ『学習する組織』英治出版, 2011年, P.5)。

ここに、 学校の組織力向上に向けた取組を考えていく上での手掛かりが示されているといえます。 具体的には、学校の組織力とは単なる「個人の力量」の足し算では生まれない柔軟な「耐性」や「しなやかさ」をもたらす力であること、そしてその力を蓄え、 向上していくためには、学校組織を省察的な学習能力を有する組織に変革していくことが必要であるという点です。 また、そうした組織づくりをしていくためには、関係者による対話をもとにしたビジョンが組織内で共有化されていることが重要であるとされている点です。

また、この省察的な学習能力を有する組織という考え方については、組織における共有ビジョンとの関係で、次のように指摘されています。 すなわち、「共有ビジョンがあることによって学習の焦点が絞られ、そして学習のエネルギーが生まれる。適応学習ならばビジョンなしでも可能だが、根源から創造する生成的学習は、人々が自分たちにとって大いに意味のあることを成し遂げようと懸命に努力しているときにのみ起こる。人々が心から達成したと思うビジョンにわくわくするようにならない限り、生成的学習―創造する能力を伸ばすこと―という考えそのものが抽象的で無意味なものに思えるだろう」(同、P.281-282)という指摘です。

ここには、共有ビジョンによって組織の一体性、一貫性が確保されるだけではなく、組織が進化し続けるために必要な学習をもたらし、組織力を向上させていくものであることが示されているといえます。 そこでは、共有ビジョンという組織目的は、日々の実践の中で立ち返るべき準拠点であり、対話と実践の中でその意味そのものが常に探求されるべき「問い」として設定されているといえます。 そうした「問い」によって、探求的で生成的な学習が生まれ、組織力が向上していくという捉え方が示されているといえます。

学校には、「どのような学校を目指すのか」といったビジョンや、「子供たちにこのような力を身に付けさせてほしい」といった思いや願いを実現する教育実践が、最初から存在するわけではありません。 また、それらは美辞麗句や曖昧な言葉では意味がありません。 その学校にとって真に意味と価値のあるビジョンを構築するためには、校長、教職員、保護者、地域住民らの関係者が子供たちの実態を見据え、互いに協働し、試行錯誤し、知恵を結集しあう中で、つまり対話を通した「生成的学習」を行う中で創り上げていくことが必要です。

こうしたプロセスのダイナミズムの中で学校の組織力は構築され、向上していくものだといえるのではないでしょうか。 そうした観点から、改めて学校という組織の捉え方や、そこでの共有ビジョンの意味合いについて検討してみましょう。

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