NITSニュース第174号 令和3年8月20日

体力向上に関する指導者の役割 ―コロナ禍でも大切な子どもの運動―

岐阜大学 教授 春日晃章

コロナ禍が続く現在、教育界で強く危惧されていることが、子どもたちの身体活動不足からくる体力の低下や身体の発達不全です。 2カ月間休校になった後に、ある小学校で緊急的に体力テストを実施したところ、大きな体力低下が見受けられました。 特に中・高学年の50m走テストでは、1年前の自分たちの平均値よりも劣る結果でした。 1年前より身長などの体格は大きくなっているにも関わらず、学年平均で足が遅くなるということは、発育発達学的に見て通常では考えられない結果です。 つまり、1年前の自分たちと競争したとしても負けてしまうほどの衰えなのです。

コロナ感染のリスクを防ぐため、本来、成長のために必要な刺激や経験が欠如し、子どもたちは心身の発達が遅延、減退するというリスクを抱えているという現実を周りの大人は考慮する必要があります。

体育授業におけるACPの導入と活用

日本スポーツ協会が策定している「アクティブ・チャイルド・プログラム(ACP)」は、子どもが楽しみながら集団で身体を動かし、基礎的運動能力である走・跳・投の動作を中心に多様な動きを経験し、且つ運動遊びを皆でアレンジしながら行うことを目指しています。 さらに、楽しみながら運動を行った結果として、子ども全員の身体活動量を高めることをねらいとしています。 運動の得意な子どもと苦手な子どもが混在している小学校の体育授業において、授業の導入部分でより多くの子どもが運動の楽しさを感じることができ、限られた時間の中でも強度の高い身体活動を行うことをねらいとするACPの概念を取り入れたプログラムを導入することは、体力・運動能力はもちろん、運動嗜好も様々である児童が混在する体育授業において有用であると考えられます。

筆者が検証した研究(春日ら、2020)でも、小学生の体育授業における冒頭10分程度のACP活動の導入は、通常の授業に比べて、運動強度が高く、主運動の上達程度にも負の影響がなく、かつ8割以上の子どもたちがACP導入体育を支持するという効果が実証されました。 つまり、ACPを取り入れた体育は、子どもが楽しみながら運動を行うことができ、身体活動量を高められることに加え、主運動で扱う運動種目への悪影響も及ぼさなかったことから、体力低下や運動能力の二極化が問題視されている現代の子どもたちに対する体育授業として有効であると思われます。 関心のある先生は、日本スポーツ協会のACPサイト(検索:JSPO-ACP)を参考にしてみてください。

仲間との活発な身体活動は学力向上にもつながる⁉

筆者がスポーツ庁の委託を受け実施した「体力と学力の関連についての分析事業」の調査結果の一部を紹介します。 小学6年生の算数応用問題正答数(満点10問)と体力総合評価の結果において、体力A、Bの児童は40%強が7問以上の正答数であるのに対し、Eの児童は21.2%のみでした。 E児童の62.1%が正答数4問以下で、A、B児童と比べても明らかに差がありました。

勘違いしていけないことは「運動すれば学力が高くなる」「勉強すれば体力が高くなる」ということでは決してありません。 多くの仲間と群れながら活発に遊ぶという行為の繰り返しが、身体だけでなく、脳や心を発達させ、「何事にも頑張る力」を心身ともに育んだが故にこのような結果となったのでしょう。 教育機関がケガやトラブルを恐れず、仲間との運動遊びを拡充させることこそ、子どもたちの学力向上への近道なのかもしれませんね。

[参考文献]

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