NITSニュース第177号 令和3年10月1日

キャリア・カウンセリングってなに?

追手門学院大学 教授 三川俊樹

キャリア教育という言葉はよくご存じだと思います。 すでに学校をあげてキャリア教育に取り組まれ、多様なカリキュラムやプログラムを実践されている方も多いでしょう。 その一方で、キャリア・カウンセリングという言葉は、聞いたことがあっても、キャリア・カウンセリングの内容や方法はよくわからないとか、キャリア・カウンセリングなどしたことがないと思っている方も少なくないようです。

(1) キャリア教育におけるキャリア・カウンセリング

キャリア教育は、一人一人の社会的・職業的自立に向けて、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育です。 この定義が打ち出されたのは、平成23(2011)年1月の中央教育審議会の答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」でしたが、この答申の中で私が最も感動したのは、このキャリア教育の定義よりも、「キャリア発達」と「キャリア・カウンセリング」についての説明でした。

この答申の中では、キャリア発達とは、社会の中で自分の役割を通して活動しながら、自分らしい生き方を実現していく過程であることが明確に示されていました。 そして、児童生徒の個別支援のためには、キャリア・カウンセリングが有効であること、キャリア・カウンセリングは専門人材を学校へ配置するよりも、日々、児童生徒に接している教職員が、カウンセリングに関する知識やスキル及びその基盤となる児童生徒と円滑にコミュニケーションをとるための方法を修得することが重要であると、はっきりと記述されていたのです。

(2) キャリア・カウンセリングの理解と実施 ―その実態は?

キャリア・カウンセリングについて、その内容や方法がわからないという意見は、特に小学校でよく聞かれます。 令和2年3月に国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターから公表された「キャリア教育に関する総合的研究」(第一次報告書)によりますと、令和元年7月~10月に実施された学級・ホームルーム担任の意識調査の結果、「キャリア・カウンセリングの内容・方法がわからない」と回答された学級担任の割合は、21.8%であったと報告されています。 実は、その7年前の平成24年度に実施した調査では、「キャリア・カウンセリングの内容・方法がわからない」との回答率が37.4%であったことから、キャリア・カウンセリングに対する学級担任の理解が深まり、児童が自分の成長を実感しながら、近い将来や遠い将来について考えることができる対話が行われていることがうかがえると述べられています。

その一方で、中学校や高等学校で「キャリア・カウンセリングの内容・方法がわからない」と回答された率は、中学校で10.8%、高等学校で10.4%と小学校の約半数に留まりました。 逆に言えば、中学校・高等学校では、担任の先生方の90%が「キャリア・カウンセリングの内容・方法がわかっている」と回答されたことになります。

しかしながら、「キャリア・カウンセリングを実施している」と回答された率は、中学校で15.4%、高等学校で21.0%であったことも報告されています。 つまり、中学校・高等学校では担任の先生方の90%が「キャリア・カウンセリングの内容・方法がわかっている」にもかかわらず、中学校では84.6%、高等学校では79.0%の担任の先生方が「キャリア・カウンセリングを実施していない」ようなのです。

(3) キャリア・カウンセリングをめぐる誤解

カウンセリングという言葉の前に、「キャリア」という単語が付け加わっているので、キャリア・カウンセリングが、なにか特別なカウンセリングであるかのような誤解が生じてしまうのかもしれません。 また、日本では、カウンセリングが「心の病」や「心の傷」とその癒しに関する臨床心理学を基盤とした心理療法(サイコセラピー)と混同されてしまうことも多く、キャリア・カウンセリングを余計にわかりにくくしているのかもしれません。

本来、カウンセリングとは、個人が一生涯にわたる発達的過程を通して効果的に機能するのを援助することを目的としており、その実践にあたり、特に成長と適応という個人の積極的側面に強調点を置くとともに、その発達的見地に立つものであることを、今から40年も前の1981年にアメリカ心理学会が提唱しています。 そして、カウンセリングの具体的な活動の内容については、人々が個人生活や社会生活において必要な技能を身につけたり、それを改善したりすること、変動する社会への適応力や環境的変化への対処能力を向上させること、さまざまな問題解決能力や意思決定能力を発達させることなどをめざすとされています。 このように見ると、本来のカウンセリングのめざすところは、キャリア教育の理念や目標と大きな違いはないことが理解できるのではないでしょうか。

(4) ガイダンスとカウンセリングは「車の両輪」

ところで、新学習指導要領では、カウンセリングという言葉が初めて導入され、児童生徒の発達を支援するために、ガイダンスとカウンセリングの双方が必要であることが明確に示されました。 つまり、主に集団の場面で必要な指導や援助を行うガイダンスに加えて、個々の児童生徒の多様な実態を踏まえて、一人一人が抱える課題に個別に対応した指導を行うカウンセリングの両方を同時に活用しながら、児童生徒の発達を支援していくというものです。 このようなガイダンスと一体になったカウンセリングを、児童生徒の発達を支援するために活用していくという考え方は、キャリア教育におけるキャリア・カウンセリングそのものです。 キャリア教育におけるキャリア・カウンセリングを端的に表現すれば、児童生徒としっかりと向き合って「対話」をすることであり、児童生徒との適切なコミュニケーションによって児童生徒のキャリア発達を支援することなのです。

日々の教育活動において、意図と目的をもった適切な声かけ・言葉がけによって、児童生徒のキャリア発達が促されるキャリア・カウンセリングが、さらに積極的に活用されるようになることを心から願っています。

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