NITSニュース第75号 平成31年1月25日

教師のメンタルヘルスをよくするには

明治大学 教授 諸富祥彦

先生方のメンタルヘルスはけっしていい状態とは言えません。精神疾患を理由として休職する教員の数(文部科学省)はピークだった2009年より少しだけ減少したとはいえ、近年も決して少なくない数で推移しています。

しかも、実際に休職している人の数はあくまでも氷山の一角にすぎず、実際にははるかに多くの人がメンタル面での不調を抱えていると考えられます。多くの教師が、こころの中ではいっぱい、いっぱい。ぎりぎりのところで何とか、働いているのです。
ふとしたときに「もう、限界」「教師、辞めてしまおうかな」そんな心のつぶやきを発したことがあるのでは、ないでしょうか。

私は、「教師を支える会」(諸富祥彦のホームページ )というサポートグループの主宰者として約20年間臨床活動をおこなってきました。その中で多くの先生方の話をうかがってきました。

そこでわかってきたことの一つは、教師がメンタルヘルスの不調に至る最大の原因は、大きく分けて「多忙さ」、仕事の量の圧倒的な多さと、さまざまな「人間関係」の問題にあるということです。

教師の仕事量はあまりも多く、帰宅時間も遅い、それでいて残業代はつかない。こうした教師の仕事の実情が知れ渡りました。その結果、「学校という職場はブラックだ」という印象が形成され、世間に浸透しつつあります。

実際、仕事の量をかなり多いと認識している教師の割合は、一般企業で働く人の約二倍います。「仕事の質」をストレスとして認識している人の割合も一般企業よりも多いのですが、「仕事の量」をストレスの原因として認識している人の割合は、教師は一般企業の社員の二倍程度います。このことから、教師のメンタルヘルスの改善のためには、「仕事の絶対量を減らす」ことが必須であることがわかります。一部の地域で、特定の曜日を指定して「17時30分までに退勤」というルールを定めているところもあります。これもしないよりはしたほうがいいでしょうが、仕事の総量を減らさない限り、結局は、他の曜日の忙しさが増すだけです。

忙しさ以上に教師のメンタルヘルスを大きく左右するのは、「人間関係」です。学級経営や生徒指導などにおける「子どもとの関係」、クレーム対応を含む「保護者との関係」、そして「同僚や管理職との関係」です。学級の状態が悪くなった時に、保護者からクレームが来る。苦しんでいる教師を同僚はサポートしてくれない。こういった人間関係の負の連鎖の中で、こころを病んでいる教師が少なくないのです。

長年、メンタルヘルスが低下した教師のカウンセリングをおこなってきた私から見て、この問題への取り組みにおいてとりわけ重要なのは、「同僚や管理職との関係」です。さまざまな問題を抱えていたとしても、「同僚や管理職との関係」が、支えになっていれば、(また早めの投薬治療などを受けていれば)休職から退職という最悪の道は避けることができることが多いのです。

したがって、教師のメンタルヘルスの問題にとって決定的に重要なのは、管理職やミドルリーダーの研修です。管理職やミドルリーダーが、この問題への理解を深めるだけでなく、問題を抱えて苦しんでいる教師に実際にどうかかわるのか、どうやって援助を希求してもらうのか、そうした実際のかかわりのスキルのトレーニングを、研修を通して身に着けていく必要があります。

管理職やミドルリーダーが、個々の教師に積極的に声掛けし、一人ひとりの悩みに耳を傾け、支えていく姿を目の当たりにして、教師集団の中にお互いをサポートしあおうとする雰囲気が醸成されていきます。「弱音を吐ける職員室」「支えあえる職員室」がつくられていくのです。

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